隆 慶一郎

一貫して、江戸時代における自由の民、『道々の輩』や、『傀儡師』

を中心にした作品をつくり続けた愛すべき人です。

この人の作品では、宴会の場面がどれも素敵です。

例えば下記の島左近の酒を飲む描写とか・・・。

『満開の桜の巨木の下で、ひとり瓢(ふくべ)の酒を大杯に満たして、

静かに飲んでいる巨漢。それは昼でもいい。夜でも良かった。

かすかな風に花片ははらはらと散り、静かに巨漢に振りかかるだろう。

盃の中にその一片が浮かぶだろう。巨漢は目を細めて暫く花弁の浮いた酒を眺め、

やがて花弁ごと酒を飲みほすだろう。

新たな酒が注がれ、新たな花弁が舞い、新たな花弁が酒に浮かぶはずである。

それをまた、ゆっくりといとおしむように眺めては飲みほす。

緩慢に陽は移り、あるいは夜は更けてゆくだろう。

それはさながら一個の花仏の姿だった。』

この人の作品は、それぞれどこかでリンクしていて、一つのサーガになっています。個人的には、『死ぬことと見つけたり』『影武者徳川家康』『一無庵風流記』の3作がお勧めです。創作のなかばでなくなられたので、未完の作品がおおいです。『死ぬことと見つけたり』も未完です(面白さには関係ない!)。『影武者徳川家康』は、上中下3巻になっています。最初に読まれるなら、一冊で読みやすい『一無庵風流記』がいいかも。心のどこかが震えるような名作ばかりです